ある晴天の昼下がり


晴天の空が続く昼下がり。こういう時はよく日の当たる場所で眠るのに限る。
 実際、この家の家族の一人である彼、ハヤトもその至福の時を味わっていた。
この異世界・リィンバウムを救った英雄である彼が、である。
 しかしそんな彼に仲間達は惹かれていた。その性格のお蔭でこの世界が救われたと
言っても過言ではないだろう。しかし、その至福の時は一瞬にして破壊された。
彼に最も惹かれているであろう少女の手によって。
 
「ハ〜ヤトッ!」

  ガスッ!

 「ぐふあぁっ!?」
 腹を押さえて彼は呻き声を上げた。理由は自分の腹部に少女の頭部がめり込んだからだ。
 「どうしたの?ハヤト。体が痙攣してるよ?」
 「・・・い・・・良いから・・・そこ・・・退け・・・・・」
 「や〜〜〜だっ♪」
 ギャリュッ!
 「あがっ!?」
 少女・カシスはその行為を止めようともせず、再び頭部を彼の腹部に潜り込ませた。
彼女はただ単に甘えただけなのだが、ハヤトにとっては激痛が再び襲って来ただけである。
 「止めろって・・・・・こらぁっ!」
 ついに我慢しきれなくなった彼はカシスを力づくで押し退けた。何故こんなに痛がるのかは、
この家の母親代わりである、リプレに聞けば分かるだろう。つまみ食いを誰がしたかと共に、
少々凹んだ麺棒を見せてくれるであろう。
 「・・・・・酷いよハヤト。私はただハヤトを起こそうと・・・・」
 と言って肩を震わせ始める。勿論本気で泣いている訳ではない。それはハヤトも分かっているのだが、
どうにもこういう場面は自分に非がある様で苦手である。
 (こんな場面をフィズにでも見られたら何言われるか分かったもんじゃない)
 「すまん、俺が悪かった」
 やはりこれも予想通り、彼女はぴたりと泣くのを止めてしまった。
 「で・・・何の用だよ」
 「うん、ハヤトに私の作ったお菓子を食べて貰おうと思って」
  ビュンッ!
 風を切る様な音と共にハヤトはその場から立ち去ろうとする。しかしその特徴的なモミアゲを
引っ張られてその場に留まる。
 「痛ででででででっ! 離せって!」
 「リプレに習ったから大丈夫だよ。ほら早く行こう」
 彼女は聞く耳等持たず、ハヤトのそれを掴んだまま、食堂へと向かって行く。
しかしこれだけ引っ張っても千切れないとは、彼の髪はどういった丈夫さなのだろうか。
 「いい加減にしろカシス! お前俺にどういった恨みがあるんだ!?」
 「恨みなんて無いよ。ただ私の作ったお菓子を食べて貰うだけ」
 「だから何でそういう人権を無視した行動をしようとするんだお前はっ!?」
 その言葉の意味が彼女には分からなかったらしい。額に人差し指を当てて唸っている。
 そんな会話をしている間に二人は食堂へと着いた。
 「やだ! 絶対食わねえぞ俺は!」
 「まあまあ、そんなに照れなくても良いから。ほら、そこに座って」
 そんな言葉に従おうとは思わなかったのだが、何故か体が動かず、カシスに強制的に椅子に
座らせられてしまった。理由は中空に強力な瘴気を放ち続ける大悪魔のむくろが浮かんでいるからだろう。
 「ハイ、ハーヤトッ♪」
 元気の良い声と共に、ハヤトの前にその菓子類は差し出された。
 普通であった。と、召喚師でない者ならば思うであろう。しかしハヤトは召喚師、
それが普通ではない事が理解出来てしまう。
 「・・・・カシス。お前、本当にこれを食べさせる気か?」
 「うん」
 邪気を全く含まない表情で彼女が言ったのを確認し、ハヤトは再び視線を下に戻す。
 (・・・・・何でクッキーの形状をわざわざペンタ君にする必要があるんだ?)
 どうせ聞いた所で答えてはくれないだろうと考え、ハヤトはその疑問を飲み込む。
 「ほらハヤト、早く食べて♪」
 口の前で両拳を揃えて、彼女はいかにも楽しそうに言う。普段その表情を見ればこちらも
楽しげな気分になってくるのだろうが、今はそういう気分になれなかった。むしろ苛立ちを感じる。
 「・・・・・・食わせたかったらマヒ状態を解け」
 今だ空中をふよふよしている『パラ・ダリオ』を指差しながら、ハヤトは多少怒りを込めて言う。
 「あ・・・・だったら私が食べさせてあげるよ」
 「状態異常を治せ!」
 その言葉は無視し、カシスは彼の口に向かってペンタ君クッキーを差し出す。
 「はい、ハヤト、あ〜〜〜〜ん」
 しかしハヤトは口を断固とした態度で閉じてしまう。カシスは膨れっ面になった後、彼の鼻を摘む。
 (・・・・・っ! 息がっ)
 耐え切れずに口を開いた途端、クッキーは口の中へと入れられてしまった。

そこまでして食べてほしいらしい。

 そのクッキー、ペンタ君の形をしているからといって爆発はしなかった。ただ・・・説明し難い味なのだ。
食べられない事は無いのだが・・・・美味しいかと言われると言葉が詰まる。そんな味だ。
 「・・・・・どう?」
 半分期待、半分不安の目で見られてハヤトは言葉を失った。
 (・・・・・美味いって嘘付いたって、すぐばれるだろうな・・・・
かといってまずいって正直に言うのも・・・・・)

 そこで彼は例えを出してみる事にした。
 「・・・・・カシス、『がしゃどくろ』って召喚獣、知ってるか?」
 シャッ!
 風切り音と共にハヤトの喉元に何かが突き付けられた。
それはカシスが呼び出したサプレスの高位召喚術、『ツヴァイレライ』の剣先であった。
 「・・・・どういう意味?」
 「いや、『がしゃどくろ』って毒の状態異常にはなるんだが、威力はてんで低くってな」

 「ねえ、リプレママ。ここにケチャップこぼした?」
 「え? 今日のご飯にケチャップは使ってないけど・・・・?」
 彼女はフィズの言葉に小首をかしげる。フィズもそれについて大した興味は無かったのか、
そのまま子供部屋へと向かって行った。
 (・・・・・・・そういえば・・・カシスが紫色の石を探してたけど・・・・何だったのかな?)
 召喚師ではないリプレにそれが『聖母プラーマ』だという事に気付く理由は無かった。
尤も、ハヤトが傷だらけになっている所は見たのだが・・・・・。

時刻は月が現れる頃、場所はフラットの屋根の上である。
両眉の間にしわを寄せている彼を見て、カシスはただ苦笑をするしかなかった。
「・・・・その・・・・大丈夫?」
「ツヴァイレライをまともに食らって大丈夫な戦士が居たら見てみたいもんだ」
怒っているらしい。何時もより声のトーンが一回り程低い。
しかしそういった怒りならカシスの方にもある。
「でも君が悪いんだよ。私の作ったお菓子に文句言うから」
ハヤトは無言でそのクッキーを片手に持ちながら、何かを召喚する為に詠唱を始める。
しばらくしてから光と共に現れたのは鬼妖界に住む『ミョージン』であった。
「ほれ」
ハヤトがクッキーをミョージンへと差し出す。卵の中に見える巨大な口で、それは菓子をバリボリと食べる。瞬間、
シャッ!
空間を切る様な音と共に、ミョージンは消え去った。戦闘不能になってしまったらしい。
「俺は獣耐性があったからあれ位で済んだらしいな・・・・・・・・で? 何か言いたい事はあるか?」
半目でカシスを睨み付ける。彼女は苦笑をしたまま汗を流し、ハヤトから目を逸らす様にしている。
「リプレに何を教わった? エルゴの王の殺し方か?」
「ち、違うよ。確かにリプレには習ったんだけど、中々覚えられなくって・・・・・・」
「だったら美味く出来るまで練習すれば良いじゃないか」
「それじゃあ間に合わないのっ!」
何に間に合わないというのだろうか。ハヤトは頭の中を探ってみる事にする。

(・・・・・今日は・・・・確か・・・)
少し時間は掛かったが思い出す事が出来た。今日は確か、
「・・・・・バレンタイン・・・か?」
少々頬を赤らめながらもカシスは頷いた。以前自分の世界にそういった風習があるのは
話した事はあったが・・・・・この世界ではこの日がそうだったらしい。
(・・・・・そういう事か・・・・)
自分の手に乗っているそれを彼はもう一度見詰た後、顔を赤らめて俯いている彼女を見詰た。
「・・・・あのな、カシス。実は・・・バレンタインの日は一週間先なんだ」
カシスの表情が歓喜と驚愕に染まった。実際は今日がその日なのだが、
この世界でその事を知っているのは彼だけである。別に何の問題も無いだろう。
「・・・・・ほんと?」
「ああ・・・だから・・・・ゆっくりリプレに習え・・・それと・・・
バレンタインに渡すのはチョコレートだ」
しばらく沈黙が続いた後、カシスが深く溜め息を付いた。
「・・・・・・・ハヤトって嘘付くの下手だよね。アカネが隠密行動する位下手」
あれと一緒にされたくはないという気持ちもあったが、
それよりも彼女を傷付けたのではないかという不安が強い。
表情を曇らせている彼の唇に、カシスはそっと自分のそれを重ねた。
「チョコレートはまだ待ってて。これを代用品にして・・・・」
顔は笑っていたが、その色は真っ赤である。それを隠す様にして彼女は急ぎ足で屋根から降りて行った。
一人取り残された彼は、足で体を支える事が不可能な状態となり、ゆっくりと屋根の下へと落ちて行った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その絶叫が彼のものか、それとも下で稽古をしていたジンガのものだったかは不明である。



あとがき>>会員nO十八のカムイです。とりあえず書いてみましたが、
ストーリーは全くもって皆無です。この愚作を同盟に載せて良いかどうかは管理人様に任せます。